小児皮膚科とは
当診療科は主に乳児期~中学生くらいまでの小児を対象とし、お子さんによくみられる皮膚トラブルを中心に診療していきます。
よく赤ちゃんの肌は、みずみずしくて弾力性に富んでいてうらやましいと思っている方もいらっしゃるかもしれませんが、子どもの肌も骨などの部位と同様に成長途上の段階です。例えば、皮膚のバリア機能(角質層や皮脂膜 等)というのは、まだまだ未熟です。ちなみに赤ちゃんの表皮は成人と比較すると半分程度の厚さしかないと言われています。そのため外からの刺激に対して敏感に反応しやすく、すぐに肌がかさつく、湿疹やかゆみの症状に見舞われるといった状態になりやすいのです。
したがって、大人よりも日頃のスキンケアが重要です。保護者の方で、どのようにケアをすればよいかわからないという場合もお気軽にご相談ください。
子どもによくみられる皮膚疾患
- アトピー性皮膚炎
- おむつかぶれ
- よだれかぶれ
- あせも
- とびひ
- いぼ
- 水いぼ
- 虫刺され
- 皮膚カンジダ症
- 脂漏性皮膚炎 等
乳児湿疹
生後間もない乳児(生後2~3週間から数ヵ月の期間)に起きる湿疹や皮膚にみられる炎症のことを総称して乳児湿疹と言います。この場合、脂漏性皮膚炎、アトピー性皮膚炎、接触皮膚炎(おむつかぶれ、よだれかぶれ)、食物アレルギーによる湿疹などが含まれます。
脂漏性皮膚炎は、皮脂の分泌過剰が原因となって発症する湿疹です。とくに乳児期と思春期~40代の成人で起きやすいと言われています。乳児期の脂漏性皮膚炎は、生後2~4週間経過してから発症するようになります。主な症状ですが、皮脂腺が多い(脂漏部位)とされる頭部や顔面(主に眉間やおでこ)等に黄色っぽいかさぶた(痂疲)が発生します。その後、かさぶたがポロポロと落ちるほか、皮膚に赤みがみられるようになります。なお乳児の脂漏性皮膚炎では、生後8ヵ月~1年未満の間に皮膚症状は軽快するようになります。
治療に関して、何もしなくても治癒していくものなので、無理に剥がそうとしないでください。また脂漏部位(頭皮、顔 等)は、石鹸などを使用するなどして清潔に保ちます。また症状が強く出ている、あるいはアトピー性皮膚炎の疑いが考えられる場合は、弱めのステロイド外用薬を使用することがあります。
おむつかぶれ
おむつを当てている部分の皮膚が炎症を起こしている、ただれているという場合は、おむつかぶれの可能性が高いです。同じおむつを長時間使用していると皮膚がふやけるなどしていくのですが、さらに尿中のアンモニア、便に含まれる消化酵素などの刺激が加わると肌がかぶれやすくなるのです。主な症状は、おむつをしている部分が赤くなって湿疹が現れるようになります。またお尻を拭く際に痛がる、おむつを外すとかゆがるなどのしぐさもみられます。症状が重度になると皮膚がただれることもあります。
治療に関して、まずお尻を清潔にし、常に乾いている状態を保ちます。そのためには、こまめにおむつを替えるようにします。またお尻をぬるま湯等で丁寧に洗った後は、水分をタオル等でしっかり拭きとってから、おむつを装用します。
上記の改善だけでは、皮膚症状が治まらない場合は亜鉛華単軟膏などを使用していきます。それでも困難となれば、ステロイド外用薬を使用するケースもあります。
とびひ
正式には伝染性膿痂疹と呼ばれる皮膚疾患です。とびひは、大きく痂疲性膿痂疹と水疱性膿痂疹の2つのタイプに分かれます。乳幼児に発症しやすいのが後者です。この場合は全身が水ぶくれになります。
水疱性膿痂疹の原因は黄色ブドウ球菌です。これが、虫刺され、アトピー性皮膚炎、あせもなどの皮膚疾患によるかゆみによって掻き壊し、その傷口から同菌が入り込むことで発症するようになります。顔や手足等にかゆみを伴う水ぶくれが発生するのですが、その膜は薄いです。あまりのかゆさから爪を立てて掻き壊すなどすることで膜は破れ、菌が手につくなどすれば瞬く間に全身に水ぶくれが発生するようになります。その様子が飛び火によって火災がひどくなる状況に似ていることから一般的には「とびひ」と呼ばれるようになりました。
この水ぶくれが破れると、赤くただれた皮膚が露出します。その後、かさぶたとなって、さらに剥がれるようになると治癒ということになります。ここまでの期間は1週間程度と言われています。
治療をする場合ですが、まずは皮膚を石鹸やシャワーで洗い流すなど清潔にし、患者さんとタオルなどを共用しないようにします。治療薬としては、抗菌薬(セフェム系 等)の内服や外用薬を使用します。またかゆみの症状が強ければ抗ヒスタミン薬を用います。
水いぼ
伝染性軟属腫ウイルスに感染することで発症する皮膚疾患です。主に皮膚が接触することで感染するとされ、夏季の時期に発症しやすいです。プールで使うビート板、あるいはタオルを介してうつることもあります。このほか、アトピー性皮膚炎の患者さん等、皮膚のバリア機能が低下している状態も発症しやすくなります。
主な症状ですが、つやつやした光沢感のある直径1~3mm程度のイボが発生します。痛みやかゆみなどの症状はありません。また水いぼの真ん中に少しくぼみがあるのも特徴です。発症しやすい部位は、腹部や背中、手足などです。
水いぼは、放置をしたとしても半年程度で治まるようになります。ただ、その間に感染を拡大させる可能性が高いので多くは治療をしていきます。その方法として、ピンセットで水いぼを摘まんで取る方法があります。ただこの場合は、痛みが出ることもあるので、麻酔のテープをあらかじめ使用することも可能です。このほか水いぼの状態によっては、液体窒素による凍結凝固法、硝酸銀を塗布するなどの治療法を行うこともあります。
いぼ
正式には尋常性疣贅と呼ばれます。これはHPV(ヒトパピローマウイルス)の2型、27型、57型に感染することで引き起こされます。同ウイルスは、わずかな皮膚の傷口からでも侵入し、角化細胞に感染することで発症します。いぼは、子どもによくみられやすいのも特徴です。
主に手足やひざ、足底の部位で発生します。その数は単発なこともあれば、多発することもあります。発症部位や形、色などから、尋常性疣贅はさまざまな種類(足底疣贅、ミルメシア、色素性疣贅、点状疣贅、糸状疣贅)に分けられます。
いぼに関しては、自覚症状がみられにくいとされています(種類によっては痛みが出ることもあります)。多くは表面がザラザラとして盛り上がっています。大きさは直径で1㎝未満のものが多く、円形もしくは不規則です。なお顔面や頸部に発生する場合は糸状疣贅(細長く伸びたいぼ)が大半です。また足の裏に発生したいぼについては、盛り上がりのないことが多いです。真っ平になっているので、たこやうおのめと区別がつかない場合は病理検査をすることもあります。
治療に関してですが、放置しても命に係わるものではありません。ただ、いぼを増やしてしまう可能性もあるので、治療を行うケースが多いです。治療法としては、液体窒素でいぼを凍らせて壊死させる凍結療法が一般的です。この場合は、治療中や治療後に痛みを感じます。また1回の治療で治ることはないので、週1回の間隔で数ヵ月程度通院することになります。
上記以外では、レーザー(炭酸ガスレーザー 等)照射による除去、ヨクイニン等の漢方薬による内服等を行うこともあります。
あせも
汗腺で発症する疾患のひとつで、正式には汗疹と呼ばれます。汗腺(エクリン汗腺:汗を体外へと出す器官)が、アカやほこりなどによって詰まってしまい、周りの組織に汗が漏出している状態があせもです。この場合、表皮に赤や白のブツブツがみられるようになります。なお、あせもは大きく3つのタイプ(水晶性汗疹、紅色汗疹、深在性汗疹)に分けられます。ちなみに同疾患は、大量の汗を掻く子どもに起きやすく、なかでも髪の毛の生え際、わきの下、首すじ、肘の屈曲部などの部位でよく見受けられます。
水晶性汗疹は、皮膚表面の角質層の部分で汗による水疱が形成されている状態です。数mmの透明な小さな水疱が確認できます。この場合は、かゆみや炎症はみられません。
紅色汗疹は、表皮内に水疱が発生し、そこで汗腺が閉塞します。強いかゆみがみられるほか、赤くて小さな丘疹も現れるようになります。かゆみの症状が強くて、掻き壊すなどすればとびひを併発することもあります。
また深在性汗疹は、最もひどい状態のあせもです。真皮の層で水疱が形成され、そこで汗腺が閉塞されています。かゆみや皮膚の赤み等はみられませんが、汗を体外へと排出するのが難しくなります。そのため熱中症の症状が起きるようになるほか、さらに進行すると体温調節機能にも影響するようになります。紅色汗疹を何度も発症している、熱帯地方にお住いの方に起きやすいと言われています。
治療は、あせもの状態によって内容は異なります。水晶性汗疹であれば汗をこまめに拭く、体を洗い流すなど常に清潔にすることで治癒するようになります。また紅色汗疹の患者さんで、かゆみや炎症の症状が強いという場合は、ステロイド系の外用薬等を使用していきます。さらに何らかの細菌感染も引き起こしていれば、抗菌薬の内服も使用します。深在性汗疹の患者さんでは、できるだけ汗をかかない環境を整え、安静に過ごすようにします。
小児アトピー性皮膚炎
乳児湿疹のひとつで、乳幼児に発症することが多い皮膚疾患(強いかゆみのある湿疹)です。その後は慢性的に皮膚症状が良くなったり悪くなったりを繰り返します。発症原因は完全に特定されていませんが、皮膚バリア機能が何らかの原因で低下している、アトピー素因(アレルギー疾患を起こしやすい体質 等)を持っているといったことが考えられています。
早ければ生後2ヵ月頃から発症し、強いかゆみを伴う湿疹がみられるようになります。上記の症状が生後半年未満の赤ちゃんで2ヵ月以上続いている、あるいは生後半年以上の乳幼児で6ヵ月以上続いているという場合は、アトピー性皮膚炎と診断されます。
なお皮膚症状に関しては、年齢によって異なります。乳児の間(1歳未満)は、頭部や顔面、手足の屈曲部を中心に赤くて湿り気のある湿疹がみられます。掻き壊すなどするとさらにじくじくし、やがてかさぶたを形成するようになります。1歳を過ぎると顔面の湿疹は軽減しますが、首まわりをはじめ、肘や膝の裏側などに現れます。その際は、湿り気は全くなく、そこの肌は乾燥してカサカサした状態(苔癬化)になるほか、皮膚の色が黒ずむようにもなります。
同疾患は成長するにつれて、症状は軽度になっていき、治癒すると言われていました。ただ患者さんによっては、成人になっても続くこともあります。また成人を過ぎてから発症したというケースも増えてきています。そのため一般皮膚科で診療することも少なくありません。
治療をする場合ですが、特効薬はありません。皮膚の炎症を抑える薬物療法として、ステロイドの外用薬、タクロリムス軟膏を使用します。また日頃からのスキンケアとして保湿剤を使い、皮膚を清潔に保つことも大切です。このほか、かゆみの症状が強く出ている場合は、抗ヒスタミン薬の内服薬が用いられます。
水ぼうそう
水ぼうそうは、感染力が強いとされる水痘帯状疱疹ウイルスに感染することで発症します。感染経路は、飛沫感染、空気感染、接触感染です。2歳から小学生の小児がよく罹患しますが、まれに成人が発症することもあります。
主な症状ですが、2週間ほどの潜伏期間を経てから発疹(赤いブツブツ)が現れます。かゆみの症状などもあり、やがて全身(口内、頭部 含む)に及びます。それらはほどなくして水疱へと変わります。その間は発熱(多くは37~38度)も発症から3日程度はみられます。この水疱がかさぶたへと変化し、それが剥がれると終わりとなります。ここまでの期間は1週間程度と言われています。
なお同ウイルスは体外へ排出されることはありません。この場合、ずっと神経節などに潜伏しています。その後、高齢など体内の免疫力が低下した際に活性化し、帯状疱疹を発症させることもあります。
この水ぼうそうはウイルスによるものなので特効薬はありません。対症療法として、かゆみの症状があれば抗ヒスタミン薬を使用します。また熱があれば解熱剤、水疱に塗り薬を使うこともあります。また成人や12歳を過ぎてから水ぼうそうに罹患した患者さんについては、抗ヘルペスウイルス薬を投与することもあります。
手足口病
口内や手のひら、足の裏に小さな水疱が発生する感染症です。その原因は、コクサッキーウイルス、あるいはエンテロウイルスに感染することで発症します(感染経路は、飛沫感染、接触感染)。人によっては感染しても発症しないこともあります。
主な症状ですが、手足の水疱(数㎜程度の楕円形)には、かゆみや痛みが現れにくいです。ただ口内の水疱が破れて潰瘍化すると痛みが出ることがあります。5歳以下の小児に起きることが大半で、3割程度の患者さんに発熱の症状がみられます(多くは38度以下)。水疱は破れてもかさぶたになることはありません。発症から1週間程度で治るようになります。また可能性としては低いですが、合併症として無菌性髄膜炎などを発症することもあります。高熱で吐き気の症状があるという場合は、速やかにご受診ください。
治療に関してですが、ウイルスが原因なので特効薬はありません。対症療法として、熱があれば解熱剤、痛みがあれば鎮痛薬を使うこともあります。なお合併症を発症している場合は、その疾患に対する治療を行っていきます。